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楽器としての大砲 [音楽]

ヤフーニュースで「大砲を使ったコンサート」との見出しを目にして、
ははん。これはチャイコフスキーの「1812年」の演奏であろう。とクリックしてみると、
はたしてやはり「大序曲1812年」の演奏をするようで、会場は大泉学園駅近郊となっている。
これはわりと家から近い場所であったので、私は昨日この大砲コンサートを取材してきたのだ。


コンサート会場①

「大序曲1812年」はナポレオンのロシア遠征敗退の様子が音により写実的に表現されている。
曲半ばではフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が高らかに奏でられたかと思うと、
次第にその旋律は弱弱しくなってゆき、ロシア帝国国歌が鳴り響く。
さらには、ナポレオンを負かしたロシア軍を称えるように鐘が鳴り、
クライマックスは大砲の連発となる。チャイコフスキーは実際の大砲を使うよう指示を残している。


コンサート会場②

こいつは、実際の大砲での演奏を聴かねばなるまい。
だが、通常コンサート会場で「1812年」が演奏される際は大太鼓等が大砲の代わりに用いられる。
それは実際のコンサート会場で大砲を使用したらとんでもないことになるからで、
また、通常の演奏団体は大砲などという物騒な代物を有していないからである。
じゃあ、そんな大砲などを所持している団体はいかなる団体なのか。それは自衛隊である。
そして、会場は陸上自衛隊朝霞駐屯地なのである。荷物検査を受け会場内へ。


4門並んだ大砲

コンサートは午後1時からということであったが、20分遅れての開始となった。
定時を過ぎても観客が次々と入場してくるからである。私はそんな中、大砲の目前の席に坐した。
1曲目はスーザ作曲「アメリカ野砲隊」である。しかし、私は気がついた。
これは演奏を楽しむどころではなく、目の前の大砲がいつぞ轟くのか脅えなければならぬことに。
私は目前の大砲と私の右斜め前方に陣取っている楽団とに交互に視線を移しながら脅えていた。
そして、終曲部において、「楽器」大砲は凄まじい轟音をぶっぱなしにおなりあそばされました。


コンサート会場③

不思議なもので、こんな尋常でない音を演奏会で聴かされると笑うしかない。
周りの観客たちもギャハハと笑いながらもキャメラを構えている。
幼児たちは恐ろしいのであろう、号泣している。すると、珍妙な格好をした団体が登場。
なぜ仮装パーティーになってしまったのか。実はこの団体は西洋流火術鉄砲隊という団体らしい。
2曲目も銃を楽器として使用するよう作曲者による指示がある曲で、その作曲者はベートーヴェン。
銃が楽器として登場することにちなんで西洋流火術鉄砲隊の登場となったのだ。


西洋流火術鉄砲隊のみなさん

その2曲目とは「ウェリントンの勝利」という曲である。
今ではあまり演奏される機会のない曲のようで、実際に銃を用いての演奏は本邦初のようである。
その演奏はというと、如何ともしがたいものであった。
というのも、銃声が私の鼓膜に伝達されるまでに発砲からある程度の時間差が生じるからで、
そのタイムラグの発生により、楽団の演奏と銃声がマッチしていないからなのであった。
結論:銃は楽器に不向きである。

その後、特別ゲストとして松本零士氏が登場。
3曲目は「宇宙戦艦ヤマト」である。私はてっきりインストで演奏されるものだと思っていたが、
ノドにおぼえのあるらしい隊員がマイクを持って「ヤマト」を熱唱。
原作者の前での歌唱であり、自衛隊員はなかなかにたいへんだなと俺は思った。
続いて和太鼓の軍団の演武のあと、いよいよお目当ての「大序曲1812年」。


コンサート会場④

さて、ここに集った観客は大きく2つに分けることができるのではないか。
ひとつには、「1812年」を大砲の演奏で聴こうじゃあないかという観客。
ひとつには、曲と関係なしに大砲の音を聞いてみようじゃあないかという観客。
しかし、4門並んだ105ミリ榴弾砲の前ではそんな区別はもはや無意味なものとなった。
「1812年」のクライマックス部では前述のとおり、大砲の連発となる。
その直前、隊員が拡声器を持ち「もうすぐ発射となります」と観客に告げているのがおかしかった。


発砲直後の大砲

直後、隊員の拡声器による予告通り、次々と大砲は空砲を発砲した。
耳をつんざく音とともに硝煙が上がり、空の薬きょうがカランと落ちる。
観客は耳をふさぐことよりキャメラを大砲に向けることに必死となった。
最後の発砲の後、遠方で花火があがった。これでつつがなくコンサートは終了した。
しかし、やはり大砲の前では演奏を聴くどころではなかったぞ。
結論:大砲は楽器に不向きである。


発砲の様子。音に注意してください。


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コメント 6

pistacci

ひゃぁ~ものすごく面白そう!!
こんな楽曲があることはもちろん知らないけれど、
これは自衛隊しか演奏できないですよねー。
動画、やっぱり私も笑っちゃいました(≧▽≦)b
by pistacci (2007-10-21 21:57) 

tamusan

私も聞きに行きました!大砲すごかったですね~。
写真の角度からすると私と同じエリアにいらっしゃったみたいです。
チビッコたちの鳴き声もすごかったですね(^^ゞ
by tamusan (2007-10-22 05:30) 

TaekoLovesParis

こういうコンサートもあるんですね。
ユニークで自衛隊らしい。隊員の「ヤマトォ~♪」っていう熱唱も
自衛隊ならでは。演習の見学のようでしたね。
by TaekoLovesParis (2007-10-22 21:59) 

いっぷく

大砲を鳴らすのを指示した楽曲があるなんて思いもよりませんでした。
仕掛けが壮大ですね閉ざされたホールではできないですからね。
大砲の音すごいでしょ。私も至近で聞いた事ありますが、
耳をふさいでいてもなお大きな音で風も感じ、驚きました。
by いっぷく (2007-10-25 07:46) 

りんこう

pistacci さん。こんばんは!
一般人は大砲を所持していたら大変なので、自衛隊ならではの演奏です。
なんなんでしょうね。笑っちゃうのですよね。
チャイコフスキーはほんとうに大砲でよいと考えていたのでしょうか?

tamusan さん。はじめまして!
tamusan さんもいらしたのですね。
tamusan さんの動画も拝見しましたが、やはり同じエリアですね。
お声かければよかったですね。(どうやって?)

Taeko さん。こんばんは!
普段は立ち入れない場所であるので、興味深かったです。
自衛隊の簡易お風呂だとか、手術室みたいのも展示されていて、
なんだか、ロバート・アルトマン監督の「マッシュ」を思い出しました。

いっぷくさん。こんばんは!
大砲の音を聞いたのは初めてでした。
イギリスでは大砲の音を聞く機会はあるのでしょうか。
大砲を使うとはチャイコフスキーもやりすぎだと思いましたよ。
by りんこう (2007-10-28 21:54) 

りゅう

大砲を使った生演奏、是非聴きたいです!!(^_^)
普段の演奏会とは一味も二味も違った面白さ。
たぶん私も笑っちゃうと思います♪
えっ、これもクラシックだから静かに聴かなきゃだめ!?(/ー\*) イヤン♪
リンクさせていただきました、よろしくお願いいたします。
http://ryuu.blog.so-net.ne.jp/2010-03-10
by りゅう (2010-03-10 13:29) 

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